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description= 『ブルーピリオド』は、2017年から講談社の月刊誌『アフタヌーン』にて連載中のマンガである。そのストーリーは、男子高校生が芸大合格を目指して奮闘するというもので、作者の山口つばさも芸大出身であるという。本稿の目的は、『ブルーピリオド』の魅力を語ることのほかに、この作品を読みながら、現代の少年マンガにおける男性性のありかたについて考えることにある。;
keywords= ブルーピリオド,山口つばさ;
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ということである, こうした男性性, 少年性への批判に抵抗するひとたちが, 少年は少年の価値で生きているのだから邪魔するなと, こっちの世界にくんなよ, 言いたくなる気持ちはよくわかる, 男性性はいま, 反省を求められている, 少年性も然りだ, 少年マンガも, これからも変わっていく, 強い少年から, 弱い少年へ, べつの強い少年へ, その往復運動は, を経由してあらたな, へと生まれ変わった龍二と同じ軌跡を描いている, 彼はライバルの少年たちに助けられながら, 受験編の結末, ついに, を獲得するのである, 強い自分を肯定する強さ, なぜそのような考えは, なのか, 彼がこれから, になるからなのだ, 強さも弱さも受け入れて, ついに彼は, を表現する芸術の領域へと足を踏み入れる, 渋谷の青い絵で触れた偶然の奇跡を, の必然でふたたび掴みとるだろう, 芸術家, 自信はないけど, 同時にとっても, だった, 戦略的にやれば上手くやれるって思ってる, と考える, この反省は, 自信がない, 本当の, 自分を, 戦略的, な自分から, できるという考えに向けられている, いま重要なのは, 自分なのだと認めることなのだ, どちらも, の競争から降りて絵を描きはじめてから, 八虎は自分の凡庸さに向き合ってきた, その過程で彼は, 自らの凡人ぶりを卑下しすぎるあまり, 最大の長所を長所として認めることができなくなっていたのだ, またもや彼は, カテゴライズ, の罠に陥っていたのである, 最後の成長は, これまでの認識と近いようで, まったく異なっている, なぜなら, ここで彼が受け入れるのは自分の, むしろ生まれもった, だからだ, ずっと, 俺が凡人だから, 自分に自身がないから, 努力して戦略練ってやんなきゃって思ってた, でもコンプレックスの裏返しじゃなくって, は俺の武器だと思ってもいいの, に勢いをえた八虎は, ラスト2時間で, 次のように気づく, ここで八虎は, に認められ, またもや泣いてしまうのだが, 彼は泣いてばかりだ, これは同時に, 世田介なりの不器用な謝罪として受けとることもできる, 芸大絵画棟8階のこの廊下は, かつて芸祭で世田介が, と言い放った因縁の廊下なのだから, 試験最終日の休憩時間, 同室で受験している世田介が, 八虎の絵の意図を, キャンバスの地を見せる裸の描き方さ, 出してんの, と的確に講評すると, 次のページがつづく, そのまんま, 小田原でのやりとりで八虎が龍二に伝えたのは, 常識的なカテゴリーでは矛盾する要素ぜんぶひっくるめてお前だろ, ということだった, 上述のテーマに辿りつく八虎は, を受け入れる準備はできている, だが芸大合格には, もう一皮むけなくてはならない, 自信がない自分, という弱さ, 幸運にも, 2次試験の課題はヌードモデルである, そこで八虎は, というテーマを着想するが, そこへ龍二とセルフヌードを描いたときに得た発見を加味して, これを, は情けなくて頼りない姿, 服を着るのはそれを隠そうとする行為, という八虎的理解へと展開することに成功する, 新しい強さ, 祖母への罪悪感を糊塗するために, という別人格を創出するとき, 龍二は, 日本画という過去を男性化し, 服飾を女性化して峻別している, だから八虎の言葉は, いまバイセクシュアルな自分を認めたように, 日本画の自分も, ファッションの自分も, という肯定として龍二に響くのだ, 八虎は龍二に, として再出発する勇気を与える, この恩返しが, こんどは二次試験の八虎を救済することになるだろう, わかりにくい, ぜんぶ含めて, のままでいいんじゃねーの, 龍二にとって, これは男性の身体という現実を見つめる作業でもある, そこで彼は, 本当は俺, ずっと好きな女の子がいるんだ, 男だけが好きならわかりやすかったのにね, と告白し, それにたいして八虎は, 最近一人称が, だったのもわかりやすいからか, でもそれって, と指摘する, 理解じゃなくてカテゴライズだよな, において, 両雄は相まみえることなく, 背中合わせで自分に向き合っている, 彼らは, によってではなく, 自分の裸体に対面しつつ, むしろ, によって, 思いがけないコミュニケーションに到達するのだ, 龍と虎は理解しあうために, かならずしも拳を交える必要はない, 弱さを互いに曝けだすこと, 強さを競うこと, 龍虎図, 八虎が, じゃあお前も描けよ, と要求するとき, 龍二の言葉は自分に跳ね返ることになる, まさしく彼はいま, 日本画を捨てた自分に, を着せているのだから, かつて美術部に自分を導いた龍二に, ともに脱衣することで報いる, 美大進学を放棄した龍二は, 一人称を, に変更する, その異変に気づいた八虎は, 二次試験直前の大事な時期に龍二と小田原の海に小旅行するのだが, そこで龍二は八虎に, を描くよう促す, いわく, 優等生の服は厚くて重そうだしね, セルフヌード, だがもちろん龍二とて自由なわけではない, 彼はじつは祖母への義理から日本画を専攻しているにすぎず, 服飾への興味を封殺して生きているのだ, かくして, 龍二にとっての日本画とファッションの関係は, 八虎にとっての, と美術の関係とパラレルであることが, 徐々に見えてくる, 空気を読みすぎることで虚無感を抱いている八虎と, 世間が良いっていうものにならなきゃいけないなら, 俺は死ぬ, と宣言する龍二, 彼らもまた鋭いコントラストをなす2人の少年だ, しかも, は相搏つ運命にある, これらのジェンダー規範にたいする撹乱性はすべて, というベクトルを持っている, 女性キャラの, ふつう, さと比較されたい, なかでもジェンダーの問題を前景化するのは, トランスジェンダーかつバイセクシュアルで, 男女両性の制服を組み合わせて着ている, ユカちゃん, 鮎川龍二, 少年に女性性を付与する, 黒髪センターパーツの世田介は女性の森先輩と見間違えられるし, 腰までのロングを三編みのおさげにしている橋田の名前は, 不良仲間でヤクザに勧誘されるようなコワモテの, 恋ちゃん, は八虎に触発されてパティシエを目指す, はるか, はジェンダーにきわめて意識的なマンガである, でわかりあうということ, それを聞いた龍二が, 意外と人間なんだな, 八虎も, と言うように, 彼は美術との, そして美術を介して出会った仲間たちとの関わりをつうじて, 徐々に, になってゆく, そんなあたりまえの事実から, 少年はずっと疎外されていたのだった, ただの人間, 周囲が不気味がるほどの八虎のストイックさも, この視点から見ればたんなるマチズモではないとわかるだろう, のちに彼は自分の努力について, やってないと怖いだけ, と言うが, 彼の強迫的な努力は, 偶然性の危うさから身を守るための唯一の手段なのである, 世田介の, は正しい, だが必然性に出逢える, 人間など, どれほどいるだろう, 凡人は疑問を抱きながらも, 偶然の連続を生きている, そこから脱却するには, 読者は, 偶然性に賭ける八虎の勇気にうたれる, ひとつの偶然を選びとり, それを必然に変えるべく努力するしかない, 上の引用では, という対立図式も見えている, この少年たちの衝突は, 八虎の視点から, ということも教えてくれるだろう, この点で八虎の弱みと悩みは, 一挙に共感の幅を広げることになる, 凡人の選択に必然性などない, 少年マンガの主人公は通常, マンガのテーマと幸福な必然性で結びついている, この意味では世田介こそが主人公にふさわしい, カースト上位だった八虎は, という漢字を分割した世田介という名をもつ天才が君臨する, の世界において, はじめて, に出会うのだ, サブキャラとしての自分, このアンフェアな発言に八虎はまた泣いてしまうのだが, ここで, 世間ではマイノリティだが美術ではマジョリティである世田介と, 世間ではマジョリティだが美術ではマイノリティである八虎, という対比がはっきりあらわれる, 苦手なんだ, 矢口さんのこと, なんでも持ってる人が, にくんなよ, 初対面の八虎をこう一蹴する彼には友人がおらず, 絵のうまさだけで全実存を支えているような少年だ, 芸大の学祭を一緒にまわったあと世田介が発する以下の暴言は, カーストの問題から2人のコントラストを浮き彫りにする, つづいて, 他の少年たちと八虎を比較してみよう, そこで浮上する問題は, 男性学における重要トピックのひとつ, 少年といっても色々な少年がいるわけだ, まずは八虎が予備校で出会う, よたすけ, 世田介, 男たちの差異, サブキャラとしての自分を知る, ちゃんとした, 大学への進学のみを, 正しい, 進路とみなす価値観にしたがえば, 次に控えているのは, さしずめ一流企業への就職であるだろう, はそれ以外の可能性を, と棄却することで, 将来の選択肢どころか, 少年たちの思考と感性をも, ごく狭い範囲へと制限しているのである, 男性性の重圧, 美形の龍二にたいして, 美大行ったってどうせ将来性ねーんだから, その顔いかしてタマノコシ狙うほうがまだマシかもよ, と言う八虎のハラスメントは, 明確に家父長イデオロギーに染まっている, だがそれは, お絵描き, の道など, でしかないという自己抑制として, 彼自身を縛りつけてもいるのだ, 家父長的な責任の放棄, これらのコマは, に直結した, 苦しい勉強, の重力から, 八虎を解放している, 渋谷の絵が理解されたとき八虎が泣いてしまうのは, 絵を褒められた嬉しさ以上に, ということ, その自由の可能性に触れた感動が大きいように思われる, その涙は彼にかわって, 俺はいままで苦しかったんだ, という弱音を吐露するのだ, 苦しさ, で飛んでもいいのだ, このシークエンスにおいて, 人より高く飛ぶ, 苦しい, 勉強が必要で, 楽しい, お絵描きなど, だと断罪しながら, 皮肉にも, この飛翔というモチーフは, すでに渋谷の絵を描いたときに現れており, このあとも繰りかえされることになる, まさしく絵を描くことの楽しさによって羽ばたく, 勉強は苦しいよ, だから, 楽しいなんて, 怠慢だ, だからこんなの時間の無駄だ, 苦しいほうが人より高く飛べるだろ, 渋谷の絵のあと, 進路希望のプリントを眺めながら八虎は, 今さら, 絵の道選べるほど, バカじゃねえんだよな, と自分に言い聞かせる, しかしラクガキを止めることができない彼は, 自室の窓から見える街並みをスケッチしつつ, 以下の倒錯的な認識を提示する, 絵も見てゆこう, で飛んでもいいんだ, かくして八虎の, が幕を開ける, の枷からの解放は, あらたな青春のはじまりであり, あらたな不安のはじまりでもある, 青の時代, この言葉は八虎の心にトゲのように刺さり, を描かせることになる, この絵のポイントは, もちろん渋谷はそんなに青くないということ, だということだ, この拙くも正直な絵は八虎の予想を超えて友人たちに伝わり, 八虎は感動して泣いてしまう, 八虎の主観の表現, まっ青な早朝の渋谷の絵, 彼には, を優先する人生の虚無感までは見えているが, その代案があるわけではない, そんなとき, ラクに好成績が取れるという理由で選択している美術の授業で, という課題を出している美術部顧問の佐伯先生が, 以下のように彼の問題を言語化する, 私の好きな風景, 俺にとってテストの点を増やすのも, 人付き合いを円滑にするのも, ノルマをクリアする楽しさに近い, クリアする為のコストは人より多くかけている, そしてそれが結果になっている, だけのことなのに, この手ごたえのなさはなんなんだ, みんなが俺を褒めるたびに虚しくなる, 同期の龍二いわく, 普通に早慶なら楽勝, である八虎は, その役割を果たせそうではある, 鋭敏な八虎の脳裏には, 以下の自問が浮かばざるをえない, 高2からはじまるストーリーの背景にあるのは, 八虎は不良仲間に, 堅実なとこ選ぶかな, と言い, 帰宅するとベッドに大学案内の冊子を発見, それを置いた母親は, 頼むからちゃんとしたとこ入ってね, と念を押す, 序盤をつうじて, 食べていけるかどうか, という基準を何度も持ちだす八虎は, を抱えている, 稼ぎ手としての男性という役割のプレッシャーと不安, 進路希望の提出, イケメン, 学業優秀, 不良っぽいけど良いヤツ, という最強の属性をもつ主人公の, 公式サイトの紹介文にあるように, のマジョリティである, 俺の絵で, 全員殺す, と宣言し, 誰よりも努力し成長してゆく八虎少年にとって, やはり男性性の問題は避けがたい, スクールカースト上位, やとら, という表現を用いたが, は男性むけの青年誌である, しかし, 主人公が10代であること, また受験のスポ根っぽさ, バトルっぽさもあいまって, 少年マンガ色が濃厚だ, じっさい, すくなくとも, においては, すぐれて少年マンガ的である, 受験モノ, 君にとって価値のあるもの, 女性作家による少年マンガである, を読む本稿では, 少年主人公の, 美術や受験というテーマや, 周囲のキャラクターとの関係をつうじて, どう問いなおされるのかを見てみたい, その過程で, について考えるヒントを提示できればと思う, 少年というマジョリティのこれから, 後者のメリットのひとつは, という視点を取りやすいことだ, 男たちはどんなきっかけで, どのように変わるのか, どんな別の自分に辿りつくのだろうか, すでに問題含みの, をインストールしてしまった男たちは, いかにしてそれを改善してゆけるのか, 上述の文脈から, というジャンルを眺めるとき, その多くは, 男性性のよくない面を再生産, 強化する傾向が強いと言わざるをえない, その問題には, まったく異なる文法で成立している少女マンガから切り込むこともできれば, から接近することもできる, 少年マンガ自身による自己省察, の規範は, 女性にたいして抑圧的, 暴力的に作用することもあれば, 男性自身がそれに呪縛され苦しむ場合もある, 女らしさ, も同様である, それを男女両性の視点から, さらには性的マイノリティの視点からも, 問いなおしてゆく必要がある, なぜ男ってこうなのか, こう書くと, 男性学はフェミニズムと対立するのではないかと疑う人もいるだろう, だがジェンダーの問題とは, つねに男性性と女性性が絡まりあったものである, つまりジェンダー問題は, なのであり, それは両性の側から同時に考えるべきだ, たとえば女性差別の解決は, 男性側の意識の変革なしには達成されえないだろう, men, studies, という学問の領域がある, これは男性性, masculinity, というジェンダー規範について研究する学問で, わかりやすい具体例を挙げれば, 男は強くあれ, 家庭を支える稼ぎ手としての父, といった, さまざまな方法でアプローチする, 男性特有のイデオロギー, 男性学, 本稿の目的は, の魅力を語ることのほかに, この作品を読みながら, について考えることにある, 本論に入るまえに, すこし背景を説明しておこう, 現代の少年マンガにおける, のありかた, 一筆目, 絵を描く悦びに目覚めてみた, 特別公開はこちら, 2019年の, マンガ大賞, 第3位, このマンガがすごい, オトコ編4位と, すでに高い評価を得ている, 最新コミックス第6巻で, が完結したところだ, 2017年から講談社の月刊誌, にて連載中のマンガである, そのストーリーは, 男子高校生が芸大合格を目指して奮闘するというもので, 作者の, も芸大出身であるという, 山口つばさ, 少年の, を問いなおす, 編集部注, 本記事には, の物語の展開や核心にふれる記述があります, 同作の魅力をより深く味わいたい方には, ぜひコミック本編と本記事をあわせてお読みいただくことをお薦めします, プロフィール, というマジョリティのゆくえ, 2019, 記事を探す, 講談社,
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芸大受験マンガ ブルーピリオド を男性性から読み解く 阿部 幸大 現代ビジネス 講談社 現代ビジネス 記事を探す 新着 政治 経済 企業 国際 社会 ライフ スポーツ 本 教養 現代ビジネス 新着 政治 経済 企業 国際 社会 ライフ スポーツ 本 教養 2019 11 26 ライフ 美術 建築 メディア マスコミ 芸大受験マンガ ブルーピリオド を男性性から読み解く 少年 というマジョリティのゆくえ 阿部 幸大 プロフィール メール コピー 編集部注 本記事には ブルーピリオド の物語の展開や核心にふれる記述があります 同作の魅力をより深く味わいたい方には ぜひコミック本編と本記事をあわせてお読みいただくことをお薦めします 少年の 男らしさ を問いなおす ブルーピリオド は 2017年から講談社の月刊誌 アフタヌーン にて連載中のマンガである そのストーリーは 男子高校生が芸大合格を目指して奮闘するというもので 作者の 山口つばさ も芸大出身であるという 2019年の マンガ大賞 第3位 同年 このマンガがすごい オトコ編4位と すでに高い評価を得ている 最新コミックス第6巻で 受験編 が完結したところだ 一筆目 絵を描く悦びに目覚めてみた 特別公開はこちら 本稿の目的は ブルーピリオド の魅力を語ることのほかに この作品を読みながら 現代の少年マンガにおける 男性性 のありかた について考えることにある 本論に入るまえに すこし背景を説明しておこう 男性学 men s studies という学問の領域がある これは男性性 masculinity つまり 男らしさ というジェンダー規範について研究する学問で わかりやすい具体例を挙げれば 男は強くあれ 家庭を支える稼ぎ手としての父 といった 男性特有のイデオロギー に さまざまな方法でアプローチする こう書くと 男性学はフェミニズムと対立するのではないかと疑う人もいるだろう だがジェンダーの問題とは つねに男性性と女性性が絡まりあったものである つまりジェンダー問題は 関係的 なのであり それは両性の側から同時に考えるべきだ たとえば女性差別の解決は 男性側の意識の変革なしには達成されえないだろう ad 男らしさ の規範は 女性にたいして抑圧的 暴力的に作用することもあれば 男性自身がそれに呪縛され苦しむ場合もある 女らしさ も同様である なぜ男ってこうなのか それを男女両性の視点から さらには性的マイノリティの視点からも 問いなおしてゆく必要がある 上述の文脈から 少年マンガ というジャンルを眺めるとき その多くは 男性性のよくない面を再生産 強化する傾向が強いと言わざるをえない その問題には まったく異なる文法で成立している少女マンガから切り込むこともできれば 少年マンガ自身による自己省察 から接近することもできる 後者のメリットのひとつは すでに問題含みの 男らしさ をインストールしてしまった男たちは いかにしてそれを改善してゆけるのか という視点を取りやすいことだ 男たちはどんなきっかけで どのように変わるのか そして どんな別の自分に辿りつくのだろうか 女性作家による少年マンガである ブルーピリオド を読む本稿では 少年主人公の 男らしさ が 美術や受験というテーマや 周囲のキャラクターとの関係をつうじて どう問いなおされるのかを見てみたい その過程で 少年というマジョリティのこれから について考えるヒントを提示できればと思う 君にとって価値のあるもの すでに 少年マンガ という表現を用いたが アフタヌーン は男性むけの青年誌である しかし 受験モノ は 主人公が10代であること また受験のスポ根っぽさ バトルっぽさもあいまって 少年マンガ色が濃厚だ じっさい ブルーピリオド も すくなくとも 受験編 においては すぐれて少年マンガ的である イケメン 学業優秀 不良っぽいけど良いヤツ という最強の属性をもつ主人公の 矢口 八虎 やとら は 公式サイトの紹介文にあるように スクールカースト上位 のマジョリティである 俺の絵で 全員殺す と宣言し 誰よりも努力し成長してゆく八虎少年にとって やはり男性性の問題は避けがたい ad 高2からはじまるストーリーの背景にあるのは 進路希望の提出 である 八虎は不良仲間に 堅実なとこ選ぶかな と言い 帰宅するとベッドに大学案内の冊子を発見 それを置いた母親は 頼むからちゃんとしたとこ入ってね と念を押す 序盤をつうじて 将来性 食べていけるかどうか という基準を何度も持ちだす八虎は 稼ぎ手としての男性という役割のプレッシャーと不安 を抱えている 同期の龍二いわく 普通に早慶なら楽勝 である八虎は その役割を果たせそうではある だが 鋭敏な八虎の脳裏には 以下の自問が浮かばざるをえない 俺にとってテストの点を増やすのも 人付き合いを円滑にするのも ノルマをクリアする楽しさに近い クリアする為のコストは人より多くかけている そしてそれが結果になっている だけのことなのに みんなが俺を褒めるたびに虚しくなる この手ごたえのなさはなんなんだ 彼には 将来性 を優先する人生の虚無感までは見えているが その代案があるわけではない そんなとき ラクに好成績が取れるという理由で選択している美術の授業で 私の好きな風景 という課題を出している美術部顧問の佐伯先生が 以下のように彼の問題を言語化する 拡大画像表示 拡大画像表示 この言葉は八虎の心にトゲのように刺さり 彼に まっ青な早朝の渋谷の絵 を描かせることになる この絵のポイントは もちろん渋谷はそんなに青くないということ つまり 世間的な価値 ではなく 八虎の主観の表現 だということだ この拙くも正直な絵は八虎の予想を超えて友人たちに伝わり 八虎は感動して泣いてしまう 拡大画像表示 かくして八虎の 青の時代 ブルーピリオド が幕を開ける 将来性 の枷からの解放は あらたな青春のはじまりであり あらたな不安のはじまりでもある 楽しさ で飛んでもいいんだ 絵も見てゆこう 渋谷の絵のあと 進路希望のプリントを眺めながら八虎は 今さら 絵の道選べるほど バカじゃねえんだよな と自分に言い聞かせる しかしラクガキを止めることができない彼は 自室の窓から見える街並みをスケッチしつつ 以下の倒錯的な認識を提示する 勉強は苦しいよ でも 苦しいほうが人より高く飛べるだろ だから 楽しいなんて 怠慢だ だからこんなの時間の無駄だ 拡大画像表示 このシークエンスにおいて 彼は 人より高く飛ぶ には 苦しい 勉強が必要で 楽しい お絵描きなど 怠慢 だと断罪しながら 皮肉にも まさしく絵を描くことの楽しさによって羽ばたく この飛翔というモチーフは すでに渋谷の絵を描いたときに現れており このあとも繰りかえされることになる 拡大画像表示 これらのコマは 将来性 に直結した 苦しい勉強 という 世間的な価値 の重力から 八虎を解放している 渋谷の絵が理解されたとき八虎が泣いてしまうのは 絵を褒められた嬉しさ以上に 苦しさ ではなく 楽しさ で飛んでもいいのだ ということ その自由の可能性に触れた感動が大きいように思われる その涙は彼にかわって 俺はいままで苦しかったんだ という弱音を吐露するのだ 美形の龍二にたいして 美大行ったってどうせ将来性ねーんだから その顔いかしてタマノコシ狙うほうがまだマシかもよ と言う八虎のハラスメントは 明確に家父長イデオロギーに染まっている だがそれは お絵描き の道など 家父長的な責任の放棄 でしかないという自己抑制として 彼自身を縛りつけてもいるのだ ad ちゃんとした 大学への進学のみを 正しい 進路とみなす価値観にしたがえば 次に控えているのは さしずめ一流企業への就職であるだろう 男性性の重圧 はそれ以外の可能性を 怠慢 と棄却することで 将来の選択肢どころか 少年たちの思考と感性をも ごく狭い範囲へと制限しているのである サブキャラとしての自分を知る つづいて 他の少年たちと八虎を比較してみよう そこで浮上する問題は 男性学における重要トピックのひとつ 男たちの差異 である 少年といっても色々な少年がいるわけだ まずは八虎が予備校で出会う 天才 高橋 世田介 よたすけ である 拡大画像表示 初対面の八虎をこう一蹴する彼には友人がおらず 絵のうまさだけで全実存を支えているような少年だ 芸大の学祭を一緒にまわったあと世田介が発する以下の暴言は カーストの問題から2人のコントラストを浮き彫りにする 俺 苦手なんだ 矢口さんのこと なんでも持ってる人が 美術 こっち にくんなよ 美術じゃなくてもよかったクセに このアンフェアな発言に八虎はまた泣いてしまうのだが ここで 世間ではマイノリティだが美術ではマジョリティである世田介と 世間ではマジョリティだが美術ではマイノリティである八虎 という対比がはっきりあらわれる 少年マンガの主人公は通常 マンガのテーマと幸福な必然性で結びついている この意味では世田介こそが主人公にふさわしい カースト上位だった八虎は 世界 という漢字を分割した世田介という名をもつ天才が君臨する 美術 あっち の世界において はじめて サブキャラとしての自分 に出会うのだ 拡大画像表示 上の引用では 天才 必然 vs 凡才 偶然 という対立図式も見えている この少年たちの衝突は 八虎の視点から 凡人の選択に必然性などない ということも教えてくれるだろう この点で八虎の弱みと悩みは 一挙に共感の幅を広げることになる 世田介の 美術じゃなくてもよかったクセに は正しい だが必然性に出逢える 強い 人間など どれほどいるだろう 凡人は疑問を抱きながらも 偶然の連続を生きている そこから脱却するには ひとつの偶然を選びとり それを必然に変えるべく努力するしかない のだ 読者は 偶然性に賭ける八虎の勇気にうたれる ad 周囲が不気味がるほどの八虎のストイックさも この視点から見ればたんなるマチズモではないとわかるだろう のちに彼は自分の努力について やってないと怖いだけ と言うが 彼の強迫的な努力は 偶然性の危うさから身を守るための唯一の手段なのである それを聞いた龍二が 意外と人間なんだな 八虎も と言うように 彼は美術との そして美術を介して出会った仲間たちとの関わりをつうじて 徐々に 人間 になってゆく ただの人間 そう そんなあたりまえの事実から 少年はずっと疎外されていたのだった 拡大画像表示 弱さ でわかりあうということ ブルーピリオド はジェンダーにきわめて意識的なマンガである 黒髪センターパーツの世田介は女性の森先輩と見間違えられるし 腰までのロングを三編みのおさげにしている橋田の名前は 悠 はるか だし 不良仲間でヤクザに勧誘されるようなコワモテの 恋ちゃん は八虎に触発されてパティシエを目指す ad これらのジェンダー規範にたいする撹乱性はすべて 少年に女性性を付与する というベクトルを持っている 女性キャラの ふつう さと比較されたい なかでもジェンダーの問題を前景化するのは トランスジェンダーかつバイセクシュアルで 男女両性の制服を組み合わせて着ている ユカちゃん 鮎川龍二 である 空気を読みすぎることで虚無感を抱いている八虎と 世間が良いっていうものにならなきゃいけないなら 俺は死ぬ と宣言する龍二 彼らもまた鋭いコントラストをなす2人の少年だ しかも 龍 と 虎 は相搏つ運命にある 拡大画像表示 だがもちろん龍二とて自由なわけではない 彼はじつは祖母への義理から日本画を専攻しているにすぎず 服飾への興味を封殺して生きているのだ かくして 龍二にとっての日本画とファッションの関係は 八虎にとっての 将来性 と美術の関係とパラレルであることが 徐々に見えてくる 美大進学を放棄した龍二は 一人称を 俺 から アタシ に変更する その異変に気づいた八虎は 二次試験直前の大事な時期に龍二と小田原の海に小旅行するのだが そこで龍二は八虎に セルフヌード を描くよう促す いわく 優等生の服は厚くて重そうだしね だが 八虎が じゃあお前も描けよ と要求するとき 龍二の言葉は自分に跳ね返ることになる まさしく彼はいま 日本画を捨てた自分に アタシ という 服 を着せているのだから かつて美術部に自分を導いた龍二に 八虎は ともに脱衣することで報いる 拡大画像表示 この 龍虎図 において 両雄は相まみえることなく 背中合わせで自分に向き合っている 彼らは 強さを競うこと によってではなく 自分の裸体に対面しつつ むしろ 弱さを互いに曝けだすこと によって 思いがけないコミュニケーションに到達するのだ 龍と虎は理解しあうために かならずしも拳を交える必要はない 龍二にとって これは男性の身体という現実を見つめる作業でもある そこで彼は 本当は俺 ずっと好きな女の子がいるんだ 男だけが好きならわかりやすかったのにね と告白し それにたいして八虎は 最近一人称が アタシ だったのもわかりやすいからか でもそれって 理解じゃなくてカテゴライズだよな と指摘する 祖母への罪悪感を糊塗するために アタシ という別人格を創出するとき 龍二は 日本画という過去を男性化し 服飾を女性化して峻別している だから八虎の言葉は いまバイセクシュアルな自分を認めたように 日本画の自分も ファッションの自分も ぜんぶ含めて 俺 のままでいいんじゃねーの という肯定として龍二に響くのだ 八虎は龍二に わかりにくい 少年 として再出発する勇気を与える この恩返しが こんどは二次試験の八虎を救済することになるだろう 新しい強さ へ 幸運にも 2次試験の課題はヌードモデルである そこで八虎は 裸 ありのまま というテーマを着想するが そこへ龍二とセルフヌードを描いたときに得た発見を加味して これを 裸 ありのまま は情けなくて頼りない姿 服を着るのはそれを隠そうとする行為 という八虎的理解へと展開することに成功する 小田原でのやりとりで八虎が龍二に伝えたのは 常識的なカテゴリーでは矛盾する要素ぜんぶひっくるめてお前だろ ということだった 上述のテーマに辿りつく八虎は すでに 自信がない自分 という弱さ を受け入れる準備はできている だが芸大合格には もう一皮むけなくてはならない 試験最終日の休憩時間 同室で受験している世田介が 八虎の絵の意図を キャンバスの地を見せる裸の描き方さ 裸の そのまんま 感 出してんの と的確に講評すると 次のページがつづく 拡大画像表示 ここで八虎は 天才 に認められ またもや泣いてしまうのだが 彼は泣いてばかりだ これは同時に 世田介なりの不器用な謝罪として受けとることもできる 芸大絵画棟8階のこの廊下は かつて芸祭で世田介が 美術じゃなくてもよかったクセに と言い放った因縁の廊下なのだから 拡大画像表示 この 激励 に勢いをえた八虎は ラスト2時間で 次のように気づく ずっと 俺が凡人だから 自分に自身がないから 努力して戦略練ってやんなきゃって思ってた でもコンプレックスの裏返しじゃなくって 努力と戦略 は俺の武器だと思ってもいいの この 受験編 最後の成長は これまでの認識と近いようで まったく異なっている なぜなら ここで彼が受け入れるのは自分の 弱さ ではなく むしろ生まれもった 強さ だからだ 世間的な価値 の競争から降りて絵を描きはじめてから 八虎は自分の凡庸さに向き合ってきた その過程で彼は 自らの凡人ぶりを卑下しすぎるあまり 最大の長所を長所として認めることができなくなっていたのだ またもや彼は カテゴライズ の罠に陥っていたのである ad 終盤 八虎は 自信はないけど 同時にとっても 傲慢 だった 戦略的にやれば上手くやれるって思ってる と考える この反省は 自信がない 本当の 自分を 戦略的 な自分から 区別 できるという考えに向けられている いま重要なのは それは どちらも 自分なのだと認めることなのだ なぜそのような考えは 傲慢 なのか それは 彼がこれから 芸術家 になるからなのだ 強さも弱さも受け入れて ついに彼は 自己 を表現する芸術の領域へと足を踏み入れる 渋谷の青い絵で触れた偶然の奇跡を 八虎は 努力と戦略 の必然でふたたび掴みとるだろう 強い少年から 弱い少年へ そして べつの強い少年へ その往復運動は アタシ を経由してあらたな 俺 へと生まれ変わった龍二と同じ軌跡を描いている 彼はライバルの少年たちに助けられながら 受験編の結末 ついに 強い自分を肯定する強さ を獲得するのである 少年は これからも変わっていく 男性性はいま 反省を求められている 少年性も然りだ そして 少年マンガも こうした男性性 少年性への批判に抵抗するひとたちが 少年は少年の価値で生きているのだから邪魔するなと こっちの世界にくんなよ と 言いたくなる気持ちはよくわかる だが重要なことは 冒頭で述べたように ジェンダーの問題は 関係的 であらざるをえないということ そして同時に 男性性 少年性の 批判 は 男性性 少年性の 否定 を意味しない ということである 男女を問わず 少年マンガの少年性を擁護するひとの多くは おそらく40年ほど昔の少年誌を読めば そこで描かれる 少年 に違和感を覚える自分を発見するだろう 少年 は歴史とともに変化してきた 構築的 な存在なのであり 少年は少年のまま 俺は俺のまま これからも変化してゆくことができるはずだ ad ブルーピリオド というマンガにとって 色 は欠かせないテーマである 予備校の担任の大葉は 色の使用において重要なことは何かと問うて 八虎の 関係性ですか という解答に 半分正解 と答える 残り半分は 色に対して神経を研ぎ澄ま すこと つまり 色のグラデーションに敏感になれ ということだ この直後に八虎は龍二に遭遇するが クィアな龍二が繊細な色彩感覚をもっているのは偶然ではない 拡大画像表示 絵画における色使いの理想は ジェンダーの比喩になっている わたしたちは少年と少女の 関係性 を考えるともに その豊かなスペクトラムにたいする感度を磨いてゆかなくてはならない あっち と こっち に切り分けて一意に定義すること それは理解ではなくカテゴライズなのだった いま少年マンガに必要なのは 少年という存在に秘められた多彩な可能性を見つめたうえで 他者とのより良い関係性の構築をめざして 少年性を開いていくことである 少年は一色ではない その外に広がっている別の色のなかでこそ 少年は より高く飛べるかもしれないのだ ブルーピリオド という少年マンガは その可能性を色鮮やかに描きだしている 本作の最新刊 第6巻が大好評発売中 八虎の渾身の戦いのゆくえは 受験編 クライマックスをお見逃しなく 関連記事 official髭男dismの大ヒット曲 pretender を同性愛から読み解く da pump u s a を日米関係から読み解く 又吉直樹 僕は浮かれようがない 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